遠い遠い山に行きました。
息を切らしながら道のない山を登っていましたら、上の方に何やら家ののようなもの。
この付近は道路もないし何だろうと思って近づいてみました。
壊れかけた家でした。
石垣が立派です。
入ってくる道もありませんから、もう住む人がいなくなって随分経つのでしょう。
未だ椿の花。
家の中。
丁度囲炉裏と思われるところから竹が生えていました。
裏に回ってみましたら、なんと見事なキエビネ。
満開でした。
ここだけが生き生きとしています。
この家に住む黄色い天使たち。
すぐ近くにあった墓石に刻まれていたのは、天保12年の文字。
江戸時代末期の墓石でした。お墓に手を合わせました。
江戸時代からこの山の中に住んでいた人たち。
ここでどのような生活が営まれていたのでしょうか。
天保年間より前、ここで赤ちゃんが誕生し、大きくなり、イノシシを捕ったり、野菜を作ったり、山菜やキノコを採ったり、薪を蓄えたり、炭を焼いたり、お米を作ったり・・・そう、こんな傾斜地でも石垣を積んで作られた田んぼの跡が残っているのです。・・・また赤ちゃんが生まれ、大きくなり・・・代々と続く山の生活。
あるときそれが終わる時が来ます。最後の人はどんな思いでこの家を後にしたのでしょう。家との別れは名頃惜しかったことでしょう。
生き生きとしたキエビネと、朽ち果てようとしている家を見ていると、この家の昔の情景が浮かんでくるような気がしました。
賑やかだった頃のこの家の幸せな人たちの話し声。
「晩御飯ができたから父ちゃんを呼びに行って来て」というお母さんの声。
「父ちゃんは上の山で木を切っていたから探しに行ってくる」という子供の声。
お風呂を沸かす煙、かまどで燃える薪・・・ 栄枯盛衰。