大きい川のほとりに広い広い田んぼがありました。
そこは宮崎県児湯郡高鍋町の山手の方です。
その田んぼを守っているのは水神様です。
水神様は田んぼの脇にポツンとおられます。
水神様は、洪水が起こらないように、天気が良すぎて田んぼが干上がらないようにと、いつもお百姓さんの願いを聞いておられました。
水神様は秋に稲の刈り取りが終わるとほっとします。
お百姓さんが、田んぼで取れた籾(もみ)を沢山持って帰ることができたからです。
そして秋が終わるころ、田んぼには何もなくなってしまいます。
水神様を守っているもの、それは大きな木です。水神様は大きな木の根元におられます。大きな木はエノキという木です。
エノキは夏の間は、石の水神様が涼しいように葉っぱをいっぱい茂らせます。
ところが秋になるとエノキの葉っぱは少しずつ落ちてしまって、冬にはとうとう裸になります。落葉樹だからです。
ですから、水神様は裸になったエノキの根っこにおられて、冬になると冷たい雨は降るし、霜は降るしでとても困っておられました。
それをいつも見ているエノキは、自分が葉を落としたせいなので、とてもやりきれない気持ちでいっぱいでした。
ある冬の日、その裸のエノキの枝にきれいな小鳥が止まりました。しっぽの先が赤色の鳥です。
ヒレンジャクという鳥です。ちょっと眼付きの悪い威張りん坊です。
ヒレンジャクはエノキが悲しそうにしているので尋ねました。
「エノキ君何か心配事でもあるの」
するとエノキは答えました。
「秋になって葉が落ちてしまったんだ。僕は生まれつきだから我慢するけど、根っこにおられる水神様が寒そうで。雨は冷たいし、霜は降りるしで凍えそうなんだよ」
ヒレンジャクは考えました。
「一つだけいい方法があるよ。試してみようか」
それを聞いてもエノキは、「鳥に冬の間も落ちない葉をつけることは無理だよな」と思いましたが、それは口に出さずに
「どんな方法だい」
と聞いてみました。
「いい方法があるよ。自分の葉でなくても、ほかの木の葉の力を借りるのさ」
ヒレンジャクは自信ありげに飛び立ちました。
そしてしばらくして帰って来ました。
「こうするのさ」と言ってしたことはなんとびっくり。
その大きな木の幹に糞をし始めました。つながった不思議な糞。
エノキはびっくりしました。
ヒレンジャクは言いました。
「来年になったら、この木の窪みに落ちた糞から芽が出て、次第に葉っぱが茂るよ。糞の中に木の種が入っているからね」
エノキは「なんだか信じられないなあ」と思いましたが、
「来年を待ってみるよ」
と言いました。
ヒレンジャクは飛び去りました。
次の年の春、本当にその幹の窪んだ所から小さな木の芽が出てきました。
エノキは喜びました。そして水神様に報告しました。
「ヒレンジャク君のいった通り、僕の幹の窪みから別の木の芽が出てきました」
その芽はエノキの幹から栄養を貰い、次第に大きくなっていきました。そして冬の間、その木の葉っぱと間違うくらい葉がたくさん茂りました。
ほら見てください。あちこちに。
エノキは大喜び。そして水神様も大喜び。
その木はヤドリギという木で、ほかの木の幹にくっついて大きくなる木だったのです。
他の木に「宿る木」です。
そして、毎年そのヤドリギには小さな花が咲いて、真冬に白い実と赤い実をつけます。
ヒレンジャクは自分の作戦が大成功で大喜び。
「どうだ、俺の言ったとおりになっただろう」
と威張って枝に止まっています。
そして毎年ヒレンジャクたちがその実を食べにやってきます。
そいうことで、冬エノキの葉がなくなっても、ヤドリギでまるでエノキの葉っぱが残っているかのように茂って、おかげで水神様も雨除けと霜よけになって大助かり。
それからというもの水神様とエノキは、冬になってヤドリギの実がなるころ、ヒレンジャクがやって来るのが待ち遠しくて仕方がありません。
おーしーまい。