「木綿以前のこと」

立春を過ぎました。少し寒さが和らぎましたけど、今年の冬は特に寒かったような気がします。

宮崎市でも早朝は氷点下になる日もあり、庭に置いている小鳥用水鉢に厚い氷が張りました。

我が家は古い木造住宅。古いサッシ戸の隙間から冷気が忍び込んできます。どうしたら防げるか考えて、雨戸を閉めることにしました。台風の時にしか閉めない木製の雨戸をがたがたと閉めました。暖かいパジャマを着て羽毛布団にくるまって寝ます。それでも明け方はとっても寒くなります。

そこでしみじみ考えたのです。

こんな寒い日、私たちの御先祖様…昔の人…はいったいどうしていたのでしょう。何を着ていたのでしょう。何を被って寝ていたのでしょう。

それで思いついた本があります。「木綿以前の事」という本です。確か文庫本を持っていたはずと思って本棚を探しました。そしたら見つかりました。民俗学者の柳田國男さんの本です。1979年、昭和54年に出た本です。

 

これによると木綿が日本に伝えられたのは、室町時代後半ごろ(1500年頃)です。

そのころから綿の栽培が始まりました。しかし木綿の着物を庶民が着るようになったのは江戸時代から明治時代にかけてだったようです。

それ以前は何を着ていたのでしょう。

麻が主流だったようです。

万葉集にも次のような歌があります。

 

あさ衣(ごろも)きればなつかし紀の国の妹(いも)背の山に麻まく吾妹  藤原郷

(麻衣を着ると、紀の国の妹背の山で麻の種を蒔く彼女が懐かしくなる)

 

万葉の時代から麻を栽培していたとはびっくりです。木綿が普及するまでずっと麻が主流だったようです。と言っても麻の着物が着れるのは文明の発達した一部の地域の人たちです。麻の手に入らない人たちは何を着ていたのでしょう。

本によると、例えば藤蔓(ふじづる)の皮で布を作っていました。今、山で見る藤の花の藤もそうですが、クズなどの蔓性の植物全体を藤と言っていたようです。

藤を打ち砕いてさらし、糸のように紡いでいたようです。その他にも地方によって木の皮なども使われていたようです。それで着物を作るのも大変だったことでしょう。そして冬は寒かったことでしょう。

布団の方は?

庶民が綿の布団で寝るようになったのはずっと後のことで、明治半ば以降のようです。それまでは畳があれば畳の上に寝て、昼着ていた衣類をかぶって寝る・・・畳がなければ藁の茣蓙(わらのござ)を敷いて藁布団をかぶって寝る・・・そういうことだったと思います。そのころの人はそれでも病気にならずに済んだのです。

文明が発達するにつれて人間の皮膚も軟弱なって来ました。私が小学校に通っていた田舎では、学校に行くのは裸足でした。今裸足で庭を歩こうと思っても小石が痛くて歩けません。米粒1個あっても痛みを感ずるのです。

この木綿以前の事を読んで自分の小さい頃の事・・・古い木綿のお下がりのネルの着物のこと、せんべい布団の事、寝る頃も燃えていた囲炉裏の事などを思い出しました。

そしてそれ以前のご先祖様たちの生活のことをしみじみと思うことでした。

そしてそして、古くなってページの端が茶色っぽくなった本のページをめくっているのは心が落ち着きます。