うっそうと茂った森の中を当てもなく歩いていました。
それほど寒さを感じない日です。冬の山ののいいところは顔にまとわりついたり刺したりする虫がいないところです。
遠くに何やら真っ白ものが立っています。不自然なくらい真っ白です。
近づいてみると ・・・・これが「山姥の休め木」(やまうばのやすめぎ)です。
昔は尾根道などの山道が交通路だったことなどから、山道で夕方の薄暗いときに、遠くに白っぽいものがぼんやりと浮かび上がると気味が悪かったことでしょう。
だから山姥という名前が付いたのでしょう。
山姥が休んでいるように見えるのです。
近づいてみると白い木です。白いというより銀白色に輝いています。
山姥というのは奥山に潜む白髪の老女の妖怪です。
人を捕って食います。恐ろしい。
木は銀白色のペンキを塗ったようです。
境目は次の写真です。
この銀白色は何かというと、絹皮病(きぬかわびょう)というカビの一種だそうです。
菌糸です。木を枯らしてしまいます。
「山姥」は、昔、口減らしのために山に捨てられた老婆かも知れないという説があります。
そういえば姥捨て山という話。
有名な小説に「楢山節考」(ならやまぶしこう)というのがあります。
深沢一郎の作です。若い頃文庫本を買って読みました。
本棚を探したらありました。これです。昭和47年ごろで120円と書いてあります。
これはすごい小説です。その時も感動しましたが、今回また読み直してみました。
ますます感動しました。
内容というよりこの小説の組み立てです。
深沢七郎という人はすごい人だと思います。
筋は、
ずっと昔のとっても貧しい時代のことです。
書き出しは
「山と山が連なっていて、どこまでも山ばかりである。
この信州の山々の間にある村—向こう村のはずれにおりんの家があった・・・・」
で始まります。
その村では貧しくて食べるものがないため、貧窮の生活をしていました、
ですから人減らしをする必要がありました。
70歳になったら、山に捨てられるのです。
主人公のおりんは69歳でした。来年になったら楢山(ならやま)に捨てられます。
ところがおりんはそれを待っているんのです。
背負って捨てに行かなければならない息子の方が悩んでいます。
おりんは準備万端整えて息子を催促し、山に向かいます。
そして雪の中に捨てられます。おりんは全く悲しくありません。そこが深沢七郎のすごさ。どのように書くか。おりんの心の描き方。
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昔読んだ人もまた読み返してみるのをお勧めします。
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この山姥の休め木に出会うと普通の人は気味が悪いのでしょうが、私のように山奥を歩くのが好きな人間にとっては、「山姥さんまた会えましたね」と懐かしい感じです。
「山姥の木」ではなく「山姥の休め木」という名前を付けた人も、この木が好きだったのかもしれません。